Stable Edge Labでは、FX市場を単一チャートだけで捉えるのではなく、複数通貨ペアの関係性から市場構造を把握するための分析ツールとして、Stable Edge Quant シリーズの開発を進めています。
今回は、10通貨ペア同士の相関関係をMT5上で一覧表示するインジケータ、
通貨相関係数表 – Stable Edge Quant
について紹介します。
このインジケータは、複数通貨ペアの対数リターンからPearsonの線形相関係数を算出し、10×10のヒートマップ形式で表示します。
相関係数を数値だけで見るのではなく、正相関・負相関・中立を色分けして表示することで、通貨ペア同士の関係性を直感的に把握できるようにしました。
1. なぜFXで相関を見るのか
FXでは、複数の通貨ペアが互いに独立して動いているように見えても、実際には共通する通貨や市場テーマの影響を受けています。
例えば、EURUSDとGBPUSDは、どちらもUSDをクオート通貨として含みます。
そのため、USDが市場全体で売られる局面では、EURUSDとGBPUSDが同時に上昇することがあります。
一方で、EURUSDとUSDJPYのように、USDが片方ではクオート通貨、もう片方ではベース通貨になる組み合わせでは、逆方向に動きやすい場面もあります。
このような関係性を把握せずに複数ポジションを保有すると、見た目以上に同じ方向へリスクを取ってしまう可能性があります。
例えば、
- EURUSDを買う
- GBPUSDを買う
- AUDUSDを買う
という3つのポジションを持った場合、一見すると3通貨ペアへ分散しているように見えます。
しかし、実際にはUSD売りへ大きく偏ったポートフォリオになっている場合があります。
そこで重要になるのが、相関関係の可視化です。
2. 監視する10通貨ペア
通貨相関係数表 – Stable Edge Quantでは、以下の10通貨ペアを監視します。
- EURUSD
- USDJPY
- GBPUSD
- AUDUSD
- EURGBP
- EURAUD
- GBPAUD
- EURJPY
- GBPJPY
- AUDJPY
これらの通貨ペアについて、すべての組み合わせの相関係数を計算します。
10通貨ペア同士なので、表示されるマトリクスは10×10です。
対角要素は同じ通貨ペア同士の比較なので、必ず1.00になります。
例えば、
- EURUSDとGBPUSD
- USDJPYとEURJPY
- EURAUDとGBPAUD
- GBPJPYとAUDJPY
など、複数の組み合わせを同時に確認できます。
3. Pearson相関係数とは
本インジケータでは、Pearsonの線形相関係数を使用しています。
2つの時系列データを (X)、(Y) とすると、相関係数は次の式で表されます。
\frac{
\mathrm{Cov}(X,Y)
}{
\sigma_X \sigma_Y
}
]
ここで、
- (\mathrm{Cov}(X,Y)):共分散
- (\sigma_X):Xの標準偏差
- (\sigma_Y):Yの標準偏差
です。
相関係数は、-1から+1の範囲になります。
- +1に近い
→ 同じ方向へ動きやすい - 0に近い
→ 明確な線形関係が少ない - -1に近い
→ 逆方向へ動きやすい
例えば、相関係数が+0.85なら、かなり似た動きをしていると考えられます。
相関係数が-0.80なら、逆方向へ動きやすい関係です。
ただし、相関係数は未来を予測する数字ではありません。
あくまで、直近一定期間における関係性を整理する統計値です。
4. 対数リターンを使う理由
本インジケータでは、単純な価格差ではなく、対数リターンを使用しています。
価格を (P_t)、1期間前の価格を (P_{t-1}) とすると、対数リターンは次の式で表されます。
\log \left(
\frac{P_t}{P_{t-1}}
\right)
]
価格水準が異なる通貨ペア同士を比較する場合、単純な値幅では比較しにくいことがあります。
例えばUSDJPYとEURGBPでは、価格水準も1pipの意味も異なります。
そこで、価格そのものではなく変動率を見ることで、異なる通貨ペア同士でも比較しやすくなります。
本インジケータでは、直近一定本数の対数リターンを使って、通貨ペア同士の相関係数を計算します。
初期設定では、
CalculationTF = PERIOD_M5CorrelationBars = 96
としているため、M5 × 96本、つまり約8時間分の値動きを使用します。
5. ヒートマップ表示
相関係数表 – Stable Edge Quantでは、相関係数をヒートマップ形式で表示します。
基本的な色分けは次の通りです。
- 緑系
→ 正相関 - 赤系
→ 負相関 - グレー系
→ 中立付近 - ゴールド系
→ 対角要素1.00
数値だけを並べるよりも、色で表示した方が市場全体の構造を素早く把握できます。
例えば、緑色のセルが多い通貨ペア群は、似た方向へ動きやすい状態です。
赤色が強い組み合わせは、逆方向へ動きやすい関係です。
また、時間経過によって色が変化することで、相関構造そのものが変わっていることも分かります。

6. ポートフォリオ設計への活用
このインジケータは、単なる相関表示ツールではありません。
複数ポジションを持つ場合の、ポートフォリオ管理にも活用できます。
例えば、複数の買い候補が出た場合、
- 相関が高い通貨ペアばかりを持たない
- 同じ通貨への偏りを避ける
- 相関が低い候補を組み合わせる
- 負相関候補をヘッジに使う
といった判断ができます。
別途開発した
レジーム ポートフォリオEA – Stable Edge Quant
では、通貨強弱だけでなく、相関係数を用いたポートフォリオ選定も設計に含めています。
通貨相関係数を利用することで、EA内部で扱う相関構造を視覚的に確認できます。
裁量トレーダーにとっても、複数ポジションの重複リスクを把握する補助ツールとして役立ちます。
7. 相関は固定ではない
相関分析で注意したいのは、相関係数は常に変化するという点です。
例えば、平常時にはEURUSDとGBPUSDが高い正相関を示していても、英国固有の材料が出た場合には、関係が崩れることがあります。
また、
- 欧州時間
- ニューヨーク時間
- 経済指標発表前後
- リスクオン局面
- リスクオフ局面
- 金利差が意識される局面
などによっても、相関構造は変化します。
そのため、相関係数は固定されたルールとして使うのではなく、現在の市場構造を確認するための動的な情報として扱う必要があります。
8. 推奨設定
基本的な推奨設定は次の通りです。
CalculationTF = PERIOD_M5CorrelationBars = 96SymbolSuffix = ""RefreshSeconds = 5WarmupBars = 500ShowValues = trueShowLegend = trueHighlightDiagonal = true
短期的な相関を見たい場合は、CorrelationBars を減らします。
より長い時間軸の関係性を見たい場合は、値を増やします。
ただし、短すぎる期間ではノイズが増え、長すぎる期間では現在の相場テーマが見えにくくなる場合があります。
まとめ
通貨相関係数 – Stable Edge Quantは、
- 10通貨ペア横断分析
- Pearson相関係数
- 対数リターン
- 10×10ヒートマップ
- 正相関・負相関の色分け
- マルチシンボル監視
- ポートフォリオ補助
- MT5上でのリアルタイム更新
を組み合わせたクオンツ型分析インジケータです。
単一チャートだけを見るのではなく、複数通貨ペアの関係性を把握することで、相場をより立体的に理解できます。
また、複数ポジションを持つ場合には、見た目上の分散ではなく、実質的なリスク分散を考える必要があります。
通貨相関係数 – Stable Edge Quantは、その判断を補助するための実用的な可視化ツールとして設計しました。
今後もStable Edge Quantシリーズでは、感覚だけに頼らず、数値と構造からStable Edgeを探すためのツール開発を続けていきます。