なぜMT5にはRCIが標準搭載されていないのか? 定番インジケータを自作して考えたこと
MetaTrader 5には、移動平均線、MACD、RSI、ストキャスティクス、ボリンジャーバンド、一目均衡表など、多数のテクニカル指標が標準搭載されています。
ところが、日本のトレーダーに比較的馴染みのあるRCIは、MT5に標準搭載されていません。
RCIを使いたい場合は、外部で配布されているカスタムインジケータを導入するか、自分で作成する必要があります。
そこで今回、Stable Edge Labでは、MT5向けのRCIインジケータを新たに開発しました。
この記事では、RCIの基本的な考え方に加えて、なぜMT5にRCIが搭載されていないのか、そしてなぜ今回あえて古典的なインジケータを開発したのかについて考察します。
RCIとは何か?
RCIは、Rank Correlation Indexの略称です。
日本語では、一般的に「順位相関指数」または「順位相関係数」と呼ばれます。
RCIの特徴は、価格の上昇幅や下落幅を直接測定するのではなく、一定期間における「時間の順位」と「終値の順位」の関係性を数値化する点にあります。
価格が時間の経過とともに規則的に上昇している場合、RCIは+100に近づきます。
反対に、価格が規則的に下落している場合、RCIは-100に近づきます。
一般的には、次のような水準が相場分析の目安として利用されます。
- +80以上:上昇方向への過熱感
- -80以下:下落方向への過熱感
- 0付近:方向性が明確ではない状態
- +100付近:規則的な上昇
- -100付近:規則的な下落
RCIは、RSIと同じようにオシレーター系指標として扱われることが多いですが、計算の考え方は異なります。
RSIが価格の上昇幅と下落幅を基準とするのに対して、RCIは価格の「順位」を基準としています。
そのため、値幅そのものよりも、価格が一定の方向へどれほど整然と動いているかを確認しやすい指標といえます。
日本で馴染みのある「9・26・52」の3本RCI
RCIは、1本だけで表示することもできます。
しかし、日本国内では、異なる期間のRCIを3本同時に表示する方法が比較的よく知られています。
代表的な設定は、次のとおりです。
- 短期RCI:9期間
- 中期RCI:26期間
- 長期RCI:52期間
短期RCIは、相場の細かな変化に素早く反応します。
中期RCIと長期RCIは、より大きな流れを確認するために使われます。
例えば、長期RCIが上向きで推移している局面において、短期RCIが-80付近から反転した場合、押し目買いの候補として観察することができます。
反対に、長期RCIが下向きの局面で、短期RCIが+80付近から下落へ転じた場合は、戻り売りの候補として見ることができます。
もちろん、RCIだけで機械的に売買すれば利益が出るわけではありません。
それでも、相場の勢いや過熱感を視覚的に整理する道具としては、非常に分かりやすい部類に入ります。
なぜMT5にはRCIが標準搭載されていないのか?
ここからは考察です。
MT5にRCIが標準搭載されていない理由について、MetaQuotesが公式見解を公表しているわけではありません。
したがって、断定はできません。
ただし、いくつかの背景は想像できます。
1. RCIは世界標準というより、日本で特に親しまれている指標だから
MT5は、世界各国のトレーダーが利用するプラットフォームです。
標準搭載されているインジケータを見ると、移動平均線、MACD、RSI、ストキャスティクス、ADX、ボリンジャーバンドなど、世界的に広く利用されている指標が中心です。
一方、RCIは日本のFX会社や証券会社で頻繁に紹介されていますが、海外のトレーダーにとって同じ程度に定番であるとは限りません。
つまり、RCIが不要だから搭載されていないというよりも、グローバルな標準機能として優先順位が高くなかった可能性があります。
2. ストキャスティクスやRSIと役割が近く見えるから
RCIは独自の計算方法を持っています。
しかし、チャート上では、-100から+100の範囲を上下するオシレーターとして表示されます。
その用途も、相場の過熱感や反転の可能性を確認することです。
そのため、標準機能を選定する側から見ると、RSIやストキャスティクスがすでに搭載されている以上、RCIまで加える必要性が低いと判断された可能性があります。
ただし、これはRCIがRSIやストキャスティクスと同じという意味ではありません。
RCIは値幅ではなく順位相関に着目します。
似た目的を持ちながらも、相場を見る角度が少し異なるのです。
3. カスタムインジケータで補完できるから
MT5には、外部で作成したインジケータを自由に追加できる仕組みがあります。
標準搭載されていない指標でも、MQL5で計算ロジックを実装すれば、チャート上へ表示できます。
MetaTraderの設計思想として、すべてのテクニカル指標を最初から搭載するのではなく、必要な機能はユーザーや開発者が補完することも想定されているのでしょう。
RCIは、その代表例といえます。
私自身は、RCIに強い思い入れがあったわけではない
正直に書くと、Stable Edge Labの中心的な研究テーマはRCIではありません。
これまで重点的に取り組んできたのは、OU過程、ADF検定、相関分析、レジーム判定、ティックデータ解析などです。
市場の状態を定量的に捉え、再現性のある分析ツールとして実装することに、より強い関心があります。
RCIは、良くも悪くも「昔ながらのテクニカル指標」です。
単純にRCIを表示しただけで、新しい市場構造が発見できるわけではありません。
それでも、今回あえてRCIを作った理由があります。
それは、開発者が興味を持つものと、利用者が必要としているものは、必ずしも一致しないからです。
MT5へ移行したものの、以前使っていたRCIが見当たらない。
9・26・52の3本を、ひとつのサブウィンドウに表示したい。
複雑な機能はいらないので、見やすくて扱いやすいRCIが欲しい。
そのような需要は、決して派手ではありません。
しかし、日常的にMT5を使うトレーダーにとっては、意外に実用的な問題です。
あえて機能を盛り込みすぎない
今回のRCIでは、短期・中期・長期の3本を同時に表示できるようにしました。
初期設定は、昔ながらの9・26・52です。
各ラインについて、表示・非表示、期間、色、太さを変更できます。
また、チャートへ追加した際の負荷を調整できるように、計算対象とするローソク足の本数も変更できます。
一方で、矢印サイン、通知、売買判定、複雑なフィルター、自動売買機能などは搭載していません。
これは、機能不足ではありません。
むしろ、古典的なインジケータとしての使いやすさを守るための設計です。
RCIを使いたい人が求めているものは、必ずしも「多機能な分析システム」ではありません。
チャートへ入れた瞬間に、必要な3本のラインが見える。
自分の使い方に応じて、少しだけ調整できる。
それで十分な場合もあります。
クオンツ系ツールとは別の役割がある
Stable Edge Labでは、統計的な分析を重視したツールを開発しています。
しかし、すべての商品を高度な分析ツールにする必要はありません。
定番指標をMT5で気軽に使えるようにすることにも、十分な意味があります。
RCIは、最新技術を詰め込んだ革新的なインジケータではありません。
それでも、長年使われてきた指標には、長年使われてきた理由があります。
市場分析では、新しさだけが価値ではありません。
複雑なモデルでなければ見えないものもあれば、単純なラインだからこそ直感的に把握できるものもあります。
今回のRCI開発を通じて、改めてそのことを感じました。
まとめ
MT5には、多数のテクニカル指標が標準搭載されています。
しかし、日本国内で一定の知名度を持つRCIは、標準機能として含まれていません。
なぜ搭載されていないのか、正確な理由は分かりません。
ただし、世界的な利用頻度、RSIやストキャスティクスとの役割の近さ、カスタムインジケータで補完できるMT5の設計思想などが、その背景にあるのかもしれません。
今回開発した「Old Classic RCI for MT5」は、複雑な機能を加えず、9・26・52の3本RCIを見やすく表示することに集中したインジケータです。
最新の分析技術を追求する一方で、昔ながらの定番指標を丁寧に再構築する。
それもまた、Stable Edge Labらしい開発の形だと考えています。